2026年7月31日、西予苔園の「はじめてキット講座」を開催しました。
今回は、会場にお越しいただく形と、オンラインで画面越しにご参加いただく形の、ハイブリッド開催です。前半は実際に手を動かして苔テラリウムを1つ作り、後半はスライドを使って苔の基礎とメンテナンスをお伝えする、という2部構成で進めました。
この記事では、当日どんなことをしたのか、どんな質問が出たのかをレポートします。「講座ってどんな雰囲気なんだろう」と気になっている方も、すでに苔テラリウムを育てている方も、参考になる部分があるかと思います。

前半:小さなグラスで1つ作ってみる
今回使ったのは、上が開いた小さめのグラス型の容器です。
小さい容器は一見やさしそうに見えますが、実は難しさもあります。空間が狭いぶん、石の置き方や苔の量が作品の印象をそのまま決めてしまうからです。当日も「ちっちゃいのって難しいんですよ、狭い空間だから」という話から始まりました。
使った材料と道具は次のとおりです。
- ベースソイル(土台になる土)
- 化粧砂(白)
- 小さな石を3つ
- ホソバオキナゴケ、ヒノキゴケ
- ピンセット、水差し、霧吹き、金属製の細いスプーン、押さえ用の棒

石組みで作品の8割が決まる
作業はベースソイルを入れるところから始めます。容器の一番ふくらんでいるところより少し上あたりまでが目安です。
そして、この日いちばん時間をかけたのが石組みでした。
石組みがこのテラリウムの作品の8割ぐらいの完成度を作っちゃうと言ってもいいぐらいなので、ここは時間をしっかりかけて、自分の中で納得できる形になるまで組んでもらったらと思います

奥を少し高く、手前を平らに。この配置を決めるだけで、完成したときの奥行きがまるで変わります。参加された方も、ここでいちばん悩まれていました。悩むのが正解の工程です。
石が決まったら、水差しでソイル全体を湿らせ、スプーンで軽く押し固めます。そのあと化粧砂を道のように敷いて、霧吹きで湿らせておきます。乾いたままだと砂が動いてしまうので、この一手間で仕上がりが安定します。
苔は「田植えのように」植える
苔の植え付けは、塊のままポンと置くのではなく、1束ずつ挿していきます。

コツは、苔の根元とピンセットの先を揃えて、まっすぐ持つことです。斜めに持ったり、茎の途中をつまんだりすると、うまく土に入っていきません。1〜2cmほど挿し込んだら、棒で苔を押さえながらピンセットだけを抜きます。
この作業に入ると、みなさん一気に集中されます。当日もこんな声かけをしていました。
コケを植え始めると集中して、口数がどんどん減っていくっていう感じになりますので、焦らずに、時間はいっぱいあるのでゆっくり植えていってください
ヒノキゴケは、茶色く伸びすぎた仮根の部分を少しカットしてから植えると扱いやすくなります。植え終わったら霧吹きでたっぷりと水をあげて、容器を拭き上げ、ガラス蓋をして完成です。

最初は「物足りないくらい」がちょうどいい
もうひとつ、この日お伝えした大事なポイントがあります。苔を植えすぎないことです。
挿す作業が楽しくなってくると、どうしても手が止まらなくなります。ただ、苔は横に広がって増えていくので、作った直後に少し物足りないと感じるくらいの量のほうが、3ヶ月後、半年後の状態がずっときれいに保てます。

ちょうどいい量は作っていくうちに体でわかってきますが、最初のうちは「これで足りるかな」と思うくらいで止めておくのがおすすめです。
後半:苔の基礎と、育て方の考え方
作品が完成したあとは、スライドに切り替えて講義パートに入りました。

苔には「枯れる」という概念がない
苔テラリウムで主に使うのは、蘚類(せんるい)と呼ばれるグループの苔です。
苔には、植物としての大きな特徴がいくつかあります。地面から水を吸い上げる根がなく、「仮根(かこん)」で体を固定しているだけです。水や栄養は、体全体から直接吸収します。花も種もありません。
そして、育てるうえでいちばん知っておいてほしいのがここです。
苔って枯れるっていう概念がなくて、苔はクローンのように増えていくという機能があるので、茶色くなってもそこからまた環境が合うと新芽を吹き出して、また復活するんですね
苔が茶色くなると「枯らしてしまった」と落ち込んでしまいがちですが、実際には光合成を止めて仮死状態になっているだけ、ということが多くあります。環境を整えれば、そこから新芽が出て戻ってきます。焦って捨ててしまわないことが、いちばんの対処法です。
置き場所と明るさ
苔が好むのは、薄暗い場所です。ホソバオキナゴケで1000ルクスくらいが目安になります。
自然光で育てるなら、直射日光の当たらない北向きの窓辺が向いています。ただ、部屋の向きは選べないことのほうが多いので、講座では一般的なLEDのデスクライトやバーライトを使う方法をおすすめしています。手軽ですし、明るさが安定します。
水やりとソーキング
水やりの頻度は、「週に何回」と決めるよりも、苔の表情を見て判断するのが確実です。たとえばヒノキゴケの葉先がチリチリと縮れてきたら、水が足りないサインです。環境によっては毎日軽く霧吹きすることもあります。あわせて、月に1回はベースソイルの奥が乾いていないかも確認してみてください。
そして、半年から1年に1回やっていただきたいのが「ソーキング」です。
テラリウムは閉じられた環境なので、苔や植物の老廃物が分解されずに溜まっていきます。窒素分が蓄積すると、だんだん黄色っぽくなってきます。そこで、容器のギリギリまで水を注いで30分ほど置き、崩さないように水を流して、最後はスポイトで残りを抜きます。これで内部がリセットされます。
なお、日々の水やりに水道水を使うと、カルキやミネラルが容器に付いて汚れの原因になります。純水や蒸留水、スーパーで手に入るRO水を使うと、掃除の手間がぐっと減ります。
夏の管理とカビ対策
いまの時期に欠かせないのが温度管理です。目安は27度前後で、30度を超える日が何日も続くと苔は傷みやすくなります。エアコンで室温をキープするのがいちばん確実です。
カビについては、殺菌剤に頼りきらない方向をおすすめしました。薬剤を使い続けるとカビ側に耐性がついてしまうためです。かわりに、ヒバ油を500mlの霧吹きに1滴ほど入れておく方法や、納豆菌やPSB(光合成細菌)といった善玉菌を加えて環境そのものを整える方法をご紹介しました。すぐに効くものではありませんが、続けているとカビが出にくくなり、出ても減っていきます。
質疑応答で出た話
講義のあとは、伸びすぎた苔のメンテナンス実演をしながらの質疑応答になりました。実際に出た質問をいくつか紹介します。

Q. LEDライトはやっぱりつけたほうがいいですか?
環境によります。南西の部屋でも、レースカーテン越しで直射日光が当たらず、エアコンが効いていて熱がこもらないなら、自然光でも大丈夫です。
Q. 100均のテープライトでもいいですか?
問題ありません。撮影用の白色LEDを少し離して当てるのも大丈夫です。LEDなら割と強めでも支障ありません。
Q. 空気の入れ替えは毎日したほうがいいですか?
今回のようなグラス容器なら必要ありません。隙間がありますし、水やりのたびに開けるので十分です。密閉度の高い容器を使っている場合は意識してみてください。
Q. 差し戻しに限界は来ないんですか?
来ません。伸びすぎた苔は上から力を入れて土に押し戻せば短くなりますし、差し戻すとまた根元のほうから新芽が出てきます。タマゴケも同じように、伸びたら元の高さに戻して調整できます。
Q. 苔を保存するとき、冷蔵庫だと野菜室ですか?
野菜室がおすすめです。普通の冷蔵室でも保存はできますが、冷気の吹き出し口の近くだと凍ってしまうことがあります。野菜室のほうが少し温度が高いので安心です。密閉したままだと徒長するので、空気穴を開けるか、3日に1回換気してあげてください。
まとめ
今回の講座で、特に持ち帰っていただきたいポイントは3つです。
- 石組みに時間をかける — 作品の完成度の8割はここで決まります。納得いくまで悩んで大丈夫です。
- 苔は植えすぎない — 作った直後に少し物足りないくらいが、半年後にいちばんきれいに育ちます。
- 茶色くなっても諦めない — 苔に「枯れる」という概念はありません。環境を整えれば新芽が出て復活します。
夏は苔にとって、いちばん気をつかう季節です。温度を27度前後に保つこと、そして苔の表情を見て水をあげること。この2つを意識していただければ、秋には落ち着いた状態で迎えられます。
西予苔園では、今回のような制作+講義の講座を定期的に開催しています。作って終わりではなく、そのあと育てていくところまでお伝えする内容にしています。ご興味のある方は、ぜひ次回ご参加ください。

こけみざわ ゆうき