オオカサゴケ。苔テラリウム好きの方や苔愛好家の方にとっては、とても人気のある苔です。

花が咲いたような葉を広げ、透明感のある透き通った緑の葉が印象的な見た目は、苔とは思えないほどきれいな美しい姿をしています。
苔テラリウムではワンポイントのアクセントにオオカサゴケを添えると、華やかな印象になるのでオオカサゴケを使って作品を作られる方も多いかと思います。
ただ、オオカサゴケは育てるには少し難易度が高い印象がありますよね。自生している天然のオオカサゴケも、秘境のような場所にしか自生していないため、夏場に枯らしてしまうケースや、植え付けてから葉が縮んで傷んだり、新芽がキレイに開かず成長が止まってしまうといったトラブルも多く聞きます。
そのようなオオカサゴケですが、実際にオオカサゴケを栽培して出荷している苔農家であり、苔テラリウム作家の私が、オオカサゴケを育てた経験の中で得た、上手な育て方や増やし方など、解説できればと思います。
オオカサゴケは、学術名Rhodobryum giganteumと記述します。
ハリガネゴケ科カサゴケ属オオカサゴケと分類されます。
大きな傘を開くような見た目の大型の苔です。山奥の多湿な渓流沿いや、常に水がしたたり落ちている涼しい山奥の斜面などに広く分布している姿を見ることができます。

インターネット上の記述では「地下茎で伸びる」という記述がありますが、オオカサゴケは地下茎ではなく「匍匐茎(ほふくけい)」が正しい認識です。
地下茎はコウヤノマンネングサにみられるように地下を這う茎(一次茎ともいう)ですが、オオカサゴケの地下から伸びる茎は匍匐する茎のことを指し匍匐茎と学術的に分別されています。
苔愛好家のバイブルである大型コケ図鑑「日本の野生植物―コケ」のオオカサゴケの項目を引用すると以下の通りの記述です。

大型で,地下に長い匍匐茎があり,直立茎は長さ6-8cm,鱗片状の赤紫色の小さな葉が中部以下につき,茎頂に大型で濃緑色の葉が集まって,湿ると横に展開して傘を広げたようになる。これらの葉は狭い基部から長い倒卵状披針形に伸び,長さ1.5-2cm,狭く鋭頭。葉緑の舵は不明瞭,上半の縁には鋭い対になった歯が並ぶ。中肋は葉先に終わる。葉身細胞は六角形,長さ100-120μm,厚壁で所々にくびれがある。雌雄異株で朔は稀。朔柄は頂生し,1茎に1-3本,長さ6-8mm。朔は長さ約8mm,長い円筒形でほぼ相称,胞子は径10-15μm。染n=10,11。林下の腐植土上などに群生。[分布]本州〜琉球;朝鮮,中国,熱帯アジア,ハワイ,マダガスカル。
– 平凡社 日本の野生植物―コケ 岩]月善之助著 より引用 –
分布の記述を見ると意外と南の地域や南国の地帯でも分布しているようです。
オオカサゴケの近緑種でカサゴケがあります。カサゴケとの違いは、顕微鏡を用いて葉の側面を観察し、対になった鈎歯を確認できればオオカサゴケと学術的に分類されます。カサゴケは歯の側面の鈎歯は対にならず1本のみです。

オオカサゴケという名前から、個体の大きいものがオオカサゴケ、小さいものがカサゴケと言われてしまうことがありますが、見た目の大きさではオオカサゴケとカサゴケの判断はできないため注意が必要です。
苔テラリウムや園芸の範囲では、オオカサゴケもカサゴケも(カサゴケモドキという近緑種も合わせて)ひとくくりにカサゴケとして扱われていることもあります。

栽培中のオオカサゴケの栽培トレーの画像。大小様々なオオカサゴケが存在しているので、単純に見た目の大きさだけでオオカサゴケ、カサゴケ、カサゴケモドキを判断するのは不可能です。
西予苔園がある愛媛県でも複数の自生ポイントを確認しています。
渓流地、渓流地の水がしたたるような斜面。山奥の秘境のような林道側の細い清流の林の地面に広くまばらに群生しているのを確認しています。




オオカサゴケの生息地は日本全国的にみても年々減少傾向にあり、複数の自治体で絶滅危惧種、絶滅危惧Ⅱ種などに指定されています。主な原因は園芸目的での採取。
オオカサゴケのレッドデータブック。日本国内でオオカサゴケの指定状況を確認できる
-画像引用:日本のレッドデータ検索システム–
西予苔園では、このような自然採取の苔の保護の観点から苔栽培を開始し、オンラインストアで販売をしています。もしオオカサゴケが欲しいと思われましたら、安心安全にご購入できる栽培種のオオカサゴケを。西予苔園のオンラインストアで販売しています。
オオカサゴケが自生している環境からわかるように、空気中の湿度が高く乾燥には弱いです。成長には少し時間がかかり、新芽が出て立派なオオカサゴケの株に成長するには半年〜1年はかかります。

苔テラリウムなどで、オオカサゴケをキレイに長く維持したい、上手に成長させてみたい、新芽を発芽させて育ててみたいという方もいらっしゃるかと思います。
オオカサゴケを上手に育てるには、3つポイントがあります。
- 日陰から半日陰の明るさ
- 葉の水分の維持
- 容器の空気管理
それぞれ詳しく解説します。
まず大前提になってくるのが、育てる場所の明るさです。自生しているオオカサゴケは渓流のそばなどの林の中の足元に群生を作っていることが多く、その場所は日陰地もしくは、たまに木漏れ日が指すような半日陰の場所。
ご家庭でオオカサゴケを上手に育てたいと思うなら、明るい日陰の場所に置くようにしましょう。
もしお手元に照度計がある場合は照度計を使ってください。オオカサゴケにとって適切な明るさは500lux〜4000luxの間です。
参考までに、曇の日の13時頃、北側の窓際がおよそ2700lux。
同じく曇りの日の13時頃、東側の窓際、少し暗いかな?と感じる室内で1000lux前後です。


LEDライトなども活用しながら、オオカサゴケに最適な明るさを確保できる設置場所に置いてください。
苔愛好家の方や苔テラリウムを始められようとしている方には、照度計が一つあるととても便利です。ぜひこの際に一つご購入されてみてはと思います。
直射日光が当たる場所、明るい日の光が間接的に当たるような場所も避けるようにしてください。
オオカサゴケの葉は太陽の光を直接受けるとすぐに傷んでしまいます。熱にも弱く紫外線も苦手です。苔テラリウムはオオカサゴケに限らずすべての苔テラリウムで直射日光はNGです。
容器内が太陽の光で蒸れてしまいサウナ状態になり苔がすぐに痛みます。1日でダメになる場合もありますので、絶対に直射日は避けましょう。

夏の暑さには弱いという特徴はありますが、私が育成しているオオカサゴケの農場は、オオカサゴケの自生地のような冷涼な地域ではありません。夏場には当然のように30℃を超えるような暑い日が続きます。
私は、栽培農場とは他に、自宅でも栽培実験を行っているオオカサゴケがあります。自宅で栽培実験をしているオオカサゴケは、冷蔵庫のようなもので夏場の気温を下げて温度を管理するような設備も使っていませんが、オオカサゴケはキレイに瑞々しいままで成長してくれています。


このような一般的に夏場は暑いような環境でも、上手にオオカサゴケを育てられているのは、葉の水分コントロールにあります。
オオカサゴケを自宅でも上手に育てたい場合は、葉の乾燥に十分注意してください。フタ付きの苔テラリウムの場合でも、空気の循環がある容器であれば1日で葉が乾燥状態になることがあります。
私が作っている苔テラリウムで、オオカサゴケを使用している作品の容器は、フタが少し浮いていて空気が循環されるようにしています。この隙間が空きすぎてしまうとオオカサゴケの乾燥スピードは早くなります。

容器と葉の状態によって、葉の乾燥具合を見極めながら、必要に応じて適宜水を上げるようにしましょう。水をあげる場合も、葉にしっかり水分を与える必要があるので、霧吹きであげるのをおすすめします。
オオカサゴケは乾燥に弱い。確かにそうです。乾燥するとオオカサゴケの葉は水分を維持するため自然に葉が縮れていきます。
葉が少し乾燥するだけなら良いのですが、カラカラに干からびるような極度な乾燥が葉にダメージが1番大きく危険です。カラカラに縮れた状態が丸1日でも続くと、葉が黄色に変色し復活しない状態まで傷んでしまいます。
また、乾燥した状態で水をあげる、また乾燥して水をあげるという行為を繰り返すと「葉が縮む→広がる」を繰り返すことになります。この繰り返しもまた、オオカサゴケの葉にダメージが大きく、葉が成長しない状態で小さい葉のままになってしまうことがあります。
私が自宅で栽培実験を行っているオオカサゴケは、ミスト発生機を使って常にミストが容器内を充満している状態になっています。このようなミスト環境で育てていると、夏場の暑さが30℃超える日が続いてもオオカサゴケは徒長もせず、キレイな自生している株のように美しい姿で瑞々しい状態で元気に成長してくれています。
栽培している農場のオオカサゴケにも、こまめな水分コントロールを行っていますので、夏場30℃超える状態でも瑞々しいまま成長してくれています。
栽培と実験を通じて感じるのは、オオカサゴケは水分のコントロールが上手にできていれば、暑さは以外と乗り越えてくれるのでは?
ということです。
さすがに夏場の暑い時期には新芽が旺盛に出るということはないですが、オオカサゴケの株の育成に関していえば、暑くても割と元気に伸びてくれています。
自宅の苔テラリウムでも、オオカサゴケの葉の状態をこまめに観察し、必要に応じて上手に水をあげることができれば、上手に育てることができると思います。
オオカサゴケに限らず苔テラリウム全般的に言えることですが、水分をあげすぎる状態が続くと、それもまたトラブルに繋がるリスクが増えます。
藻が発生して容器の美観を損ねてしまったり、容器内の有機物からカビが発生して苔がやられてしまうなどのトラブルが出て来ますよね。

水はたくさんあげても容器内に水がたまり過ぎたりした場合は、余った水をスポイトで除去し、容器内の汚れなどもこまめにキレイに掃除してあげるようにすることも大切です。
オオカサゴケは山奥などの秘境、渓流などに自生しているイメージから、涼しい場所でないと育てられないというイメージがありますが、実は温かい場所でも上手に育ちます。
西予苔園である愛媛県の地でも栽培できています。私の自宅でも栽培実験のためにオオカサゴケを自宅の屋外で栽培していますが、空気中の水分量さえ確保できれば温かい場所でも上手に育ちます。図鑑の記述ととおり琉球地域やハワイなどでも分布が確認できることから、温かい場所でも元気に育てるのは可能です。
続いて、容器の空気の管理です。
容器の中の空気が密閉されてしまうと、空気の循環がなくなります。そうするとオオカサゴケは上に上に伸びてしまい葉がキレイに開かなくなります。

このような現象を『徒長(とちょう)』と言いますが、適度な空気の循環が無い環境だと徒長しやすくなります。徒長すると茎だけが上に伸びて間延びしたような形になります。そして、徒長するとキレイに葉が開けなくなるケースが多いです。
キレイな形で葉を開かせるには新鮮な空気の循環が大切になってきます。葉の乾燥を気にしすぎて容器を密閉してしまうと、このような問題が起きるため、適度な空気の循環が必要になります。
そのため、西予苔園の苔テラリウムはオオカサゴケに限らずフタに適度な隙間があくようにスペーサーを付けてフタと容器の間の隙間が調整できるようにしています。
容器の形状や使用する苔によってその隙間を微妙に調整しながら最適な空気の循環ができるように、それでいて乾燥し過ぎないようにしています。
徒長に関しては、空気の循環の問題のほか以下のようなケースで起こります。

光合成に必要な光が足りないと光合成できずに徒長してしまうということと、水分過多によって葉が常に湿りすぎている状態だと、光合成する働きが弱くなり徒長につながるというメカニズムです。
西予苔園では複数の苔栽培をしていますが、オオカサゴケは特に成長に時間がかかる苔だなと実感しています。
オオカサゴケは種ゴケの播種から、出荷できる状態になるまで約1月かかりました。1年経過してもなお未熟なオオカサゴケもありますので、全体的にはもう少し時間がかかると思われます。
苔テラリウムの容器内で育っているオオカサゴケはもう少し成長が早い印象です。苔テラリウムの場合は、親株を植え付けてから環境が合えばすぐに新芽を伸ばすこともあります。そのまま好条件の環境に設置していれば、新芽から親株に成長するまでに3ヶ月程度で成長した株もあります。
苔テラリウムで植え付けた場合は比較的成長は早いですが、栽培目的や増やす目的で蒔きゴケなどで育てた場合は成長に時間がかかる特徴があります。
オオカサゴケを上手に育てていくと、新芽を出すことがあります。基本的には新芽は春頃と秋頃に出しますが、暑さ寒さを超え比較的に涼しさを感じる季節に新芽を出します。
オオカサゴケの繁殖は2種類あり、「有性生殖」と「無性生殖」と呼ばれる繁殖の仕方をします。
有性繁殖とは、胞子を付けてその胞子を飛ばし新しい芽を出す繁殖方法です。オオカサゴケは本来、雌雄別株といって、雌株と雄株は別の株です。なおかつ胞子をつけることは稀だそうですが、私も胞子を付けているオオカサゴケはみたことはありません。
オオカサゴケを胞子で増やしたいと思っても、自然環境でも稀なケースなので、有性生殖でオオカサゴケを意図的に増やそうと思っても現実的にはほぼ不可能です。
ほぼ不可能と思っていたのですが、先日ついに栽培オオカサゴケで蒴を付けた株を発見しました!これはかなり珍しい!
オオカサゴケを増やそうとする場合、無性繁殖の方法を取ります。無性生殖とは自分の体の一部からクローンのように芽を出して増える繁殖方法です。栽培や苔テラリウムでオオカサゴケが自然に新芽を出す場合もこの無性生殖で増えていることになります。


苔の無性生殖では体の一部であれば葉や茎など苔の体のどこからでも芽を出します。苔テラリウムで植え付けているオオカサゴケであれば茎の根本から新芽を出すことが多いですが、葉のてっぺんから新芽を出すこともあれば、茎の途中から脇芽のように芽を出すこともあります。
無性生殖の方法もいくつか手法があります。少ない種ゴケから効率よくたくさん芽を出したいという場合は「蒔きゴケ(まきごけ)」という方法で増やします。

無性生殖の性質を応用して、茎をはさみで刻んで土に蒔いて発芽を待つ方法です。苔栽培では蒔きゴケで栽培する場合がほとんどです。
蒔きゴケの場合は、茎の刻み方でも新芽の成長の仕方に影響し、細かく刻みすぎると出てくる芽の成長に時間がかかる傾向が強くなります。あまり細かく刻みすぎない程度に撒いていくのが良いかもしれません。

オオカサゴケを育てていても上手に育てることができず、茶色の変色してしまったという方もいらっしゃるでしょう。
茶色に変色してもまだ諦めないでください。茶色に変色したオオカサゴケからも新芽は出ます。茶色に枯れたからといって捨ててしまわずに、茶色になった場合はそのまま新芽を出すために別容器で栽培実験をされてみるのもおすすめです。
上手に育てることができれば、新芽が出てまた新たな株でオオカサゴケの苔テラリウムを楽しむことができるかもしれませんよ。

ここまでオオカサゴケの特徴や育て方、増やし方などをご紹介しましたが、オオカサゴケを観賞用に育てて楽しみたい方にとって、一番オススメの育て方はやっぱり苔テラリウムです。

苔テラリウムでも、オオカサゴケに最適な育て方のポイントとしては、大きめの容器かつフタが付いた容器を使うようにしましょう。

小さい容器では容器内の容量が少ないので容器内の環境は変化しやすく、最適な環境の維持が難しいのでオオカサゴケには不向きです。小さい容器にオオカサゴケを植え付けると葉の変色するスピードがかなり早く私でもオオカサゴケを上手に育てることはできません。
大きめの容器だと、容器内の環境が安定しやすいのでオオカサゴケを使って苔テラリウムを作る場合は大きめ容器が断然おすすめです。高さのある容器や内容量の大きな容器を使って、水を好む苔と合わせてみると苔テラリウムの作品としては長く維持できるのではと思います。
常時ミストが発生できるようなパルダリウムのような環境であればなおよしです。私が栽培実験を行っていた容器では常にミスト発生機でミストを出していますが、この環境はオオカサゴケにとっては一番良い環境のようですので、今後私も常時ミストを発生させるような作品を作りたいと考えています。
パルダリウムの苔版のようなイメージですね。できましたらまたこちらのブログやYouTubeでご紹介できればと思います。
以上、オオカサゴケの育て方や増やし方などのご紹介でした。参考にして頂ければ幸いです。

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